報告・ニュースレター

HOME > 報告書 > 反テロリズム戦争と東アジアの反応

反テロリズム戦争と東アジアの反応

反テロリズム戦争と東アジアの反応  (文責:上杉勇司)


講師:村井友秀氏 / Tomohide Murai  防衛大学校教授


 平成14年3月12日に、国際紛争(中国)の専門家である村井友秀防衛大学校教授を招聘して、「反テロリズム戦争と東アジアの反応」と題する講演会を開催した。以下に講演の内容を要約する。


「新しい戦争」の概念

 2001年9月11日に起こった米国の同時多発テロは、米国をはじめ世界中に大きな衝撃を与えた。米国のブッシュ大統領は、テロの首謀者とみなすウサマ・ビンラーディンやアル・カイーダなどの国際テロリストに対する「新しい戦争」を宣言した。これまで「新しい戦争」と言えば、最先端の技術を駆使したRMAやサイバー戦争のことを指していた。しかし、今回のテロリストたちの戦法は古典的なものであった。ではなぜ「新しい戦争」と呼ばれるのか。通 常、予想されるコストが高ければ戦争はしない。しかし、米国流の合理的な計算は、価値観を共有しないテロリストたちには通じなかった。テロリストたちにとって今回の戦争はジハード(聖戦)である。「コストを完全に無視した非合理的で抑止力の効かない相手との戦い」という意味で今回の戦争は米国にとって「新しい戦争」であった。


タリバンが支持された理由

 では、反テロ戦争のターゲットとなっているアフガニスタンのタリバンとは、一体どういう勢力で、なぜ支持されてきたのか。彼らはソ連が1979年に侵攻して以来、アフガニスタンで20年以上続く内戦をほぼ終結させた勢力であった。タリバンの勝因は、他の勢力に勝る兵力数ではなく、強盗・強姦が日常茶飯事であったこの国の治安を回復させ、大多数の国民の支持を得たことに求められる。タリバン政権の象徴とされる女性への抑圧は、その反面、女性にとっては不自由ではあるが、身の安全が保障され、安心して暮らせる環境を作りだしたのである。内戦に勝利するということは、通常の戦争に勝利する場合とは違い、国民の支持を得ることが不可欠であり、タリバンはまさにその方法で勝利した。ちなみに第二次世界大戦直後の中国の内戦で、共産党が国民党に勝利した理由もここにあった。共産党は、人々の自由を拘束したものの身の安全を保障したために勝利したのである。


アジア地域の反応

 今回の反テロ戦争によって、大きな不利益を被った国はアジアには少ない。むしろ中国、ロシア、中央アジア諸国はそれなりの利益を得た。特に中国は、反テロ戦争で国際協調を重視するようになった米国が、アジアにおける中国の影響力を認めたため米中関係が改善された、と認識している。また、米国の軍事行動により、東トルキスタンにおけるウイグル族の独立運動を支援していたタリバンやアル・カイーダが大打撃を受けたため、中国にとって分離独立運動の鎮圧が従来より容易になった。一方、最大の不利益を被ったのは、「悪の枢軸」と名指しされたイラン、イラク、そして北朝鮮であろう。


国際社会と我が国の反応

 最後に、アフガニスタン復興には、国際協力が不可欠であり、国際社会が持続的に支援していく必要がある。アフガン支援に大変積極的な我が国であるが、これまで以上に慎重な対応が求められる。なぜなら、米軍侵攻以前のアフガニスタン国民の大多数はタリバン支持者であり、米軍の撤退とともに彼らが翻意して内戦に逆戻りする可能性も大いに秘めているからだ。