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座談会報告

在日米軍再編合意の履行にむけ


参加者:西原 正 平和・安全保障研究所理事長
    川上 高司 拓殖大学国際開発学部教授
    渡部 恒雄 三井物産戦略研究所主任研究員
    高橋 杉雄 防衛研究所教官
司 会:上杉 勇司 沖縄平和協力センター副理事長(広島大学大学院国際協力研究科助教授)


要旨

イントロダクション
  1. 沖縄県民の思いと日米の政策との間のずれをどのように埋めていくのかが、本座談会の主要テーマ。

○2007 年以降の米国の動向
  1. 米国で政府と議会の蜜月関係が崩れ、今後は予算・歳出・国防といった議会の各委員会が重要になる。
  2. 中間選挙での民主党の勝利は、単純なイラクへの反戦ではない。
  3. 国防総省の実務メンバーは、ほとんど変わっておらず、東アジア戦略に変更は無い。

○2007 年以降の日米関係
  1. 合意事項の履行には、予算の確保が一番の課題。
  2. 海兵隊のグアム移転は既定路線であり、拠点をグアムに置き、マリアナ諸島を訓練地として使用し、そこでは自衛隊との共同訓練も視野に入れている。

○2007 年以降の日本への影響
  1. 米国にイラク以外を見直す余裕は無く、ゲーツ新国防長官に変わったことで見直すという話は出ておらず、重要なのはそれでも沖縄から相当数の海兵隊がいなくなること。
  2. 予算について日本の財務省がどこまで理解して、納得するか。

○移転に係る問題
  1. イラク戦争後の米軍の前方展開、日本の抑止力についても検討の必要がある。

○日本の安全への影響
  1. MEU は前線に近い沖縄に、MEB・MEF はハワイの司令部に近いグアムに移ることで即応性はむしろ高まる。

○海兵隊の理想的な駐留場所
  1. グアムに行きたい希望はあるが、これまでは移設資金が無かった。
  2. 軍がいなければ平和という考えは、沖縄では実体験に根付いた思考法で、この島を二度と戦場にしないという強い意志があり、日本政府はそれに応え、沖縄を二度と捨石にしないと約束で きるのか。

○沖縄県知事選挙と沖縄経済
  1. 国からの援助は沖縄県に限らず他の地方も同じ。
  2. 沖縄県が他県と違うのは、基地の補助は景気による減額がほとんど無い。
  3. 今回の再編は、理想的な解決策ではないかもしれないが、非常に実利としては得るものが多く、履行したほうがよいのではないか。

○辺野古移設問題
  1. 辺野古受け入れを織り込み済みと考える東京と再検討を求める沖縄でスタンスが全く違う。
  2. 1,800m の滑走路が必要だという納得できる説明がまだない。

○仲井真県政の展望
  1. 稲嶺県政が米国に15年の期限を求めたことと、現在の仲井真県政が日本の目標設定として 3年を設定するというのは意味合いが違う。
  2. 3年後は2009年だが、米国もロシアも韓国も台湾も新政権になっており、北京オリンピックも終わっていて、沖縄を取り巻く状況は未知である。

○これからの沖縄問題
  1. 米国がイラクで手間取ることで、日本の発言力は相対的に高くなっているが、米国には大きく方針転換をするといった余裕がなく、既存の合意の履行には有利だが、再交渉はほぼ不可能。
  2. 沖縄県民は安全保障の重要性を理解しており、ただ負担を分散して欲しいと訴えているだけである。
  3. 沖縄県民を理解しない政府に反感を覚え、米軍には最低限のマナーを守って欲しいと思っている。
  4. これからは基地管理権や地位協定も訴え、知事選挙で県民は既に選択したので、積極的に進めてはどうか。
  5. 辺野古であれば陸地部分は明日からでも作業を開始することで、早期の解決が出来るのではないか。

イントロダクション

上杉:

 OPAC では、本日、座談会に参加いただいている先生たちを委員として、すでに過去 2 年間以上に渡り、米軍再編が沖縄に及ぼす影響に関して研究を進めてきた。2005 年 3 月には、米軍再編の最終合意前の段階で、将来予測と沖縄は米軍再編を受けてどのようなことをすべきであるかという政策提言『米軍再編と沖縄のグランドストラテジー』(以下、『グランドストラテジー』)をまとめている。


川上:

 OPAC はこれまでの活動で、沖縄と本土を結びつける非常に貴重な役割を果たしてきた。『グランドストラテジー』は大きな影響があった。沖縄県民が安全保障という議論に正面から向き合うようになり、東京での政策決定において沖縄の意見を反映させるきっかけとなった。まさに橋渡し的な役目を果たしたのではないかと思う。


上杉:

 現在は、『グランドストラテジー』のフォローアップ版の政策提言をまとめている。在日米軍再編に関する合意はなされたが、今後の履行に向けてどうすべきか、提言したい。
 提言の方向性としては、沖縄県民の思いや意見をある程度くみつつも、日本全体の動きや米国の政策といった流れの中で、双方のずれをどのように埋めていけばいいのかという点について、提言と出来ればいいのではないかと考えている。東京と沖縄における情報ギャップも埋めてみたい。
 難しくはあるが、沖縄県にとって必要とされる提案を行い、それが沖縄の県益となり、ひいては日本の国益にも繋がっていける方策を考えたい。
 沖縄では県知事が新しく仲井真弘多氏に決まったことで、新たな県政がスタートした。本日は座談会形式で米軍再編について皆さんのお考えを伺い、沖縄県への提言を探っていきたい。今回の米軍再編の合意に関して、SACO の二の舞にならないよう、うまく進めていくにはどうすべきなのか、という点を中心に、仲井真新県政を提言先として念頭におき、お話していただきたい。米軍再編については、日米で計画が合意され、現在は履行の段階へと移り進んでいる。本論に入る前に、2007 年の日米関係はどのようになっていくのだろうかということを、まずはお聞きしたい。

 今回の米軍再編の動きは、ラムズフェルド国防長官の非常に強いイニシアチブのもとに進んできた。だが、ラムズフェルド氏が国防総省を去り、新しくゲーツ氏が長官に就任した。2007 年以後、米国の戦略はどう変化していくのか。また、それはどう日本に影響を及ぼすのか。
 議論の順番としては、この展望をまずはお聞きしたい。それから、日本としては、どう対応をNPO 法人 沖縄平和協力センター していくのかを伺い、最後にそれを受けて、沖縄の県政に対する提案という流れにしたい。


2007 年以降の米国の動向

渡部:

 2007 年以降の動きというと、先の中間選挙後の動きとなるので、現時点ではまだ分からないことが多い。ただ、何が変わり何が変わらないのかということで見ていきたい。
 先の中間選挙は、上下両院で共和党が負けた。ただ、民主党から当選した上院議員候補の一人が病床に臥しており、この人物の進退によっては民主党の上院での過半数維持が崩れるので、若干の不確定要素はまだある。

 議会では委員長の職をどちらの党が獲得するかで、大きな影響がある。例えば米軍再編やイラクでの作戦と密接な関係がある軍事予算に関しては、上下院の予算委員長に加えて、上下院の歳出委員長とその国防小委員会の委員長の影響が大きい。軍事予算も5,600億ドルという巨額の予算を2007年度分として要求しているのだが、これからの議会審議で歳出割当がどうなるか、議会の動きがこれからますます重要になってくる。
 議会の役割がなぜより重要になるかというと、これまでは共和党のブッシュ政権と共和党が多数を占める議会が、予算をほぼ同じ方向で進めてきた。その証拠に、特に議会の法案に関して、小さな政府主義者からは不評ながらも、ブッシュ政権はこれまで拒否権をほとんど発動してこなかった。それがこれからは、議会が民主党主導で動くために、ブッシュ政権も拒否権を行使する必要が出てくるだろうし、そもそも議会と政府の蜜月関係が崩れることになる。
 もう一つ重要なことは、そもそも議会で共和党の優勢が逆転した理由が、米国国民が抱くイラクの戦況に対する不安であるということだろう。ブッシュ政権は「ステイザコース」、つまり「方針を変えずにこのまま進めていけばいずれ成功する」としてきたが、これに対して不満が出てきた。そこで国民がどうにか状況を変えたくて、議会を民主党にすることで動きを出そうとしたところがある。これは、単純なイラク戦争への反戦という動きではない。
 反戦とは違うという証拠に、例えば今回落選した議員の中にロードアイランド州の共和党候補であったチェイフィー氏がいた。この人物は共和党穏健派で、2002 年のイラク戦争開戦容認決議で唯一反対した上院の共和党議員であって、穏健派のリベラルとして定評があったにもかかわらず落選した。つまり、米国内で反戦機運が高まっているというより、議会を民主党にすることで、硬直したブッシュ政権の政策をどうにか動かそうという考えが、米国内には強くあり、政権側もそれを理解し始めている。
 新たな方向性を求めていることの証拠に、イラク研究グループというベーカー元国務長官やリー・ハミルトン元民主党下院外交問題委員長を中心に、イラクの状況を変えるための超党派のグループが結成され、12 月6日に提言が出された。この提言は、かなり政治的な意味合いが強いもので、賛否両論となった。軍事的に履行できる提言かというと難しい内容である。ポジティブに見れば、今までの政策をある程度転換していこうという内容で、ネガティブに見れば、現実を把握しておらず、現実の軍事的対応にはつながらないという内容であった。

 例えば、ジョンズホプキンス大学 SAIS のエリオット・コーエン教授などは以下のように批判している。過去の米国の歴史で、政治家と軍人の関係の話で考えると、例えばもし戦況が悪化したとすれば、まずは現場の指揮官たちが呼び集められ、政治指導者たちと話し合う。指揮官たちが現状を理解できていないことが問題であれば、将軍を解任して新たなチームを作って新しい作戦を再度行う。そうやって新たな軍事作戦は進めていくものである。もちろん、多くの場合、こういう過程は国民に見えないし、決定が下されたことは事後に知ることになる。しかし、今回のイラク研究グループの提言は、このようなことを行わないで、初めから政策がおかしいという前提で議論がなされ、それも超党派の組織であるから誰もが知っているようなレベルの議論になっている。これは変な話である、とのことであった。さらには、提言内容を具体的に見ると、軍事的には実現可能性があるとは思えないものが多くなっているとコーエン教授は指摘している。
 このようなコーエン教授の批判は一面では正しくはある。だが、彼の姿勢では政策を大きく変える機会が失われてしまうので、それはそれで問題となる。これは結局のところ、ブッシュ政権も民主党もイラクに対しての簡潔な答えがないということの反映である。これからの大統領選挙に向けて、拙い回答をすると問題なので、特に候補者たちはこのような流れに便乗していくのかもしれない。
 ちなみに次の大統領選挙への取り組みは、通常より早く 2007 年中頃からは動き出すと思われる。その理由は現職(大統領か副大統領)の大統領候補がいないからである。今回はブッシュもチェイニーも出馬しない。大統領選挙で、現職か副大統領が出馬しない選挙は実に 1928 年以来だ。そのために早い時期から大統領選挙が展開されるとみられており、イラク戦争に対する国民の関心が高いまま続いていく以上、イラク政策に関する発言が重要になってくることになる。そこで、超党派のイラク研究グループが出した提言があれば、両党の候補ともに個人の見解を明確にしなくても済むということになるわけである。  いずれにしても、イラク研究グループの提言は米国内では非常に関心を集めたし、軍事から外交的な取り組みに転換せよという内容は重要だ。このようなエッセンスに加え、軍事上の現実的な選択肢としては、イラクに一時的に増派し、安定後に引き上げるという選択肢も提言されている。
 このようなイラクに関する新たな動きは、ラムズフェルドがいるときはできなかった。その理由はラムズフェルドが、軍や議会の要請を抑え込んでしまうからであった。ではラムズフェルドがいなくなった今後はどうなるのか。新国防長官や国防総省の制服組との関係がどうなり、どのような取り組みを見せるのかは要注目だ。ただし、現在の米軍はぎりぎりのローテーションでイラク派兵を行っており、大規模な増派は、徴兵制でも復活させないかぎり無理だという苦しい状況も忘れてはいけない。
 イラク政策については明瞭で簡単な答えは存在しない。しかし米国内の最重要課題なので、どのような選択肢をとろうが、相当なエネルギーを米国として割かなくてはならない状況が続く。もしブッシュ政権が独自の大きな行動に打って出たとしても、1 年や 2 年で結果は出ない。例えば、包括的な中東外交といっても、イラクやシリア、果てはパレスチナとまで対話をせねばならず、これまで 50 年以上かかってもまとまらなかった話を解決することは非常に困難である。
 結論をいえば、米国は 2007 年を通じてイラクを始めとする中東情勢に相当なエネルギーを割かれることになる。イラク関係の予算が優先されると、東アジアに割く予算というものが少なく なる。それに加えてラムズフェルドがいなくなったことで、今までの日米での協議内容が継続するかが注目点だ。ラムズフェルドに非常に近く、これまで重要な役割を果たしてきた東アジア担当のローレス国防副次官が、どのような形でゲーツ国防長官と関係を持つのかが重要となる。
 ローレスについては、いろいろと話が取りざたされるが、政権に残るであろうと言われている。恐らくは新設される東アジア担当の国防次官補となるのではないか。疑問として残るのは、ローレスとゲーツの関係である。両者とも同時期に CIA に所属していたが、専門も異なり、両者の関係は不明である。この辺りの見極めが重要になってくるであろう。
 ただ、ローレス以下、国防総省の現場のメンバーはほとんど変わっていないので、その意味では日米間の問題についてはかなりの継続性があると予想される。


上杉:

 ローレスについては、それでも辞めるのではないかという話がでているが、それについてはどうか。


渡部:

 やはり辞めない可能性のほうが高くみられている。少なくとも日本政府はそう考えて進めているように思える。


○2007 年以降の日米関係

川上:

 米国はまさに渡部先生が話された方向で動いていくと思う。今後の米軍再編において最も注目すべきは、ローレスとゲーツの関係である。そこでローレスが残るとするならば、全てはローレス主導で進んでいくのではないかと考える。
 これまではラムズフェルドが国防長官としてローレスの後ろに控えて在日米軍再編協議を進めてきた。それをローレスが直接担当することになれば、現在の政策をそのまま進めるか、自分なりの修正を加えるのかであろう。恐らくは現在のまま推し進めると予想される。
 そこで人物も重要だが、予算が一番の問題となってくると考えられる。米国は渡部先生が指摘したように、アジア地域に回す予算が無くなる。そこで日本の予算が重要になる。
現在の 2 兆円から 3 兆円といわれる基地移転費用の予算を予定通り獲得せよといったプレッシャーが日本政府に対してかかっていることになるが、ただでさえ厳しい予算状況に防衛省はどう対応していくのか。新規で特別予算を組んでいくにしても、日本で基地の再編をする場合には特別予算以外の経費がどうしてもかかってくる。また、特別予算が国会で承認されるのかという問題もある。さらに、自衛隊の役割と任務が増えることから、米国から防衛費を増やせという要求がくるかもしれない。
 今後、トランスフォーメーションがどの方向に進むのかというのも問題となる。これまで引っ張ってきたラムズフェルドがいなくなるが、ゲーツ国防長官やイングランド副長官が引っ張っていくことができるのかという問題である。ラムズフェルドの去った後の国防総省がどのように運用されていくか、またそれがどう再編協議に結びついていくのかということが懸念される。
 日本としては、再編協議を小泉政権の終盤に官邸主導で額賀防衛庁長官とともに進めていたが、安倍総理と久間防衛大臣のコンビでも同様に進展させることができるのかという課題がでてくる。守屋事務次官はまだ在任しているが、安倍チームの動きが気にかかるところである。


高橋:

 川上先生が指摘されたラムズフェルドが去った後のトランスフォーメーションだが、大きな変化はないだろう。そもそも国防総省内では、文官主導のトランスフォーメーションの動きは一年以上前に大きく変質している。セブロスキーが OFT(Office of Force Transformation の略、2006年 10 月 1 日付で閉鎖)の部長を健康問題で辞任した段階で、文官側はイニシアチブを失い、いまは JFC(Joint Forces Command)主導でトランスフォーメーションが進められている。そのため、制服のやりたいようにトランスフォーメーションが進められているともいえる。ゲーツが国防長官としてどのように考えていても、現状は維持されるだろう。ただし、このような現状は、元来のトランスフォーメーションのコンセプトからいえば、かなり後退しており、各軍の利益のみを代表したものになってしまう恐れがある。
 では在日米軍の再編を考えたときにどうなるのかというと、海兵隊の主張が再び強まることが直感的に予想される。ただ、海兵隊としては、マリアナ諸島の訓練施設などを強化することで、グアムを新た なハブとして地域協力などを進めていくコンセプトに移っているようである。そのため、現在の合意をひっくり返そうとする動きは出てこないだろう。問題はやはり先に出た予算の点で、新たな訓練や移転費用などを米国議会が予算としてつけるのかということである。
 米国にとって予算が問題となる以上、日米の資金負担合意の見直しが議論となる可能性はある。ただ、現状の資金負担は 6 対 4 で日本が多い。施設にかかる経費だけでみると、およそ日米同額の負担になっている。米国国内の軍事施設の建設で、過半数を他国に負担させるような意見が議会で中心になるとは思えず、日本へのさらなる資金負担の要求は出ないのではないか。


川上:

 最近になってグアムに関する話をほとんど聞かなくなってきたが、グアムについて進展はないだろうか。


上杉:

 海兵隊としては、グアムに拠点を置くことは既定路線で、訓練計画なども作成しており、移転する意思は当然ある。マリアナ諸島での訓練については、沖縄で訓練を行うよりも、むしろ望ましいとしており、マリアナ諸島で自衛隊と共同訓練を行うことも考えていているだろう。普天間移設が進まなくても、海兵隊としてはグアムに移る気でいるのではないだろうか。


渡部:

 普天間が動かなくても、ですか。


川上:

 マリアナ諸島には、海兵隊員のための娯楽施設があるということでしょうか。


上杉:

 マリアナ諸島はあくまでも訓練で使用する施設ということで、拠点はグアムにするということ。射撃訓練などを行うにしても、沖縄では非常に多くの問題や制限があるので、マリアナ諸島での訓練を希望しているのではないか。


○2007 年以降の日本への影響

上杉:

 では、以上のような米国の動き、また日米間の動きを受けて、日本への影響はどのようなものになるのだろうか。報道では海兵隊や陸軍において、ラムズフェルドの下で削減された定員を、再び増員しようとしていると取り上げられたが、それについてはどうか。


高橋:

 問題は増員を希望しても、募集に人が集まらないということがある。これまでは軍には比較的貧困層が多かったから、米国社会全体の平均に比して軍に黒人が占める割合が高かったのだが、去年頃から同じになってきた。それだけ貧しい人でも軍には行かなくなってきたということである。だから、これから採用枠を増やしていったとしても、実際にはなかなか増えない可能性が高い。


西原:

 陸軍と海兵隊の数を増やそうとしていることが、日本への配備に影響するのではないかとマスコミは取り上げる。それがどのように影響するのかを私なりに考えてみたい。沖縄から海兵隊約 8,000 人をグアムへと移すことに関しては、日本に影響はないと思う。座間に陸軍の司令部を移すということでも影響はないと考える。米軍の人数が増えようと、既定の路線は以上のようなものであり、どのように日本に影 響するのかがよく分からない。今後の米軍の動きで日本に影響がある可能性としては、朝鮮半島で動きがあるような場合だと思うものの、それでも大きくは変わらないであろうと思う。


高橋:

 全くその通りだ。少なくとも今の米国に、イラク以外の問題で決まったことを見直す余裕はないので、日米の米軍再編合意はとりあえず淡々と実行していくのだろう。ゲーツが新しく国防長官になったからといって再編合意を見直すという話はなく、新たな動きはない。


川上:

 同じく既定路線に変更はないと思うが、日本がいかに移転の費用を予算化するかということもあり、そのことが来年度の問題になると思う。少ない防衛予算の中で、どのようにやりくりしていくのか、非常に苦しいことになるのだろう。


西原:

 先日の報道では、移転費は防衛費からではなく、それ以外の財源から出すということがあった。そうであれば、防衛費から苦慮して考えることにはならないのではないか。


川上:

 確かに移転費は通常の防衛予算からの捻出にはならないかもしれない。ただ、これからの国会での審議によるため、ただでさえ防衛予算が不足している現状であるのに、米軍移転のために特別な予算を作ってもいいのかという議論などが出てくると思われる。そうなると、それらをいかに抑えていくかという問題も出てくる。さらにそれ以外の支出も考えられる。


渡部:

 移転費用以外の問題としては、とにかく原油価格が上がっていて、エネルギー代が高騰しているのが非常に深刻な問題となっている。原油価格が 2001 年までに比べて 2 倍に上がっているわけで、これは非常に苦しい問題となっている。


高橋:

 それもあって、インド洋の給油協力では非常に感謝されている。


渡部:

 はっきり言ってしまうと、日本の財務省が在日米軍再編における移転費用の重要性をいかに理解してくれて、予算をしっかりと計上してくれるかというのが問題。グアムの移転費用では足りない予算に PFI(Private Finance Initiative)を使おうとしているが、結局はその補填をどこから持ってくるのかというのが問題になる。本来の PFI の枠組みというのは、どこかで儲けるセクションがあって、将来的にはそこから儲けるという考えになっている。それではグアムへの移転で、どのように儲けるのかといえば、甚だ疑問である。
 恐らく短期的にはごまかしも効くのだろうし、長期的には国防にとって大事なのだから、赤字になっても最終的には税金で補填すればいいと考えているのならそれも一つの手だろう。ただし、それで財務省が納得するのかは別の話だ。


○移転に係る問題

上杉:

 基地の国内での受け入れについては、例えば沖縄や岩国といった特定の地域の問題であった。しかしグアムへの移転というのは、税金の問題であり、広く薄くかもしれないが日本国民全体の問題となってくる。この問題への説明として、沖縄の負担軽減という一言だけで国民が納得するのか。


西原:

 日本政府はもっとうまい説明をすべきであろう。例えば、グアムの基地や住宅などの関連施設を建設することは、将来的に日本の自衛隊もグアムで合同訓練をする可能性が高まり、その際にはそれらの施設が利用できる、といった説明であればもっと国民も納得するかもしれない。将来の日本のための費用を使っているということで、実際に訓練もそうなっていくと思う。


川上:

 しかし、それではついに日本が海外に軍隊を展開した、などといった反発も予想される。


西原:

 確かに自衛隊が使用するための基地を建設するといえば批判もされるであろうが、あくまでも駐留などではなく、訓練のための施設建設であると私は考えている。


川上:

 確かに国益の視点から考えると、またとないチャンスであるとは思う。


上杉:

 国益の観点にせよ、訓練施設を国外に建設するということを、どのように詳しく説明するのか。


西原:

 日本国内では非常に狭く、新たな場所もないため、たまたまグアムに建設されるのであれば、それを利用する。あくまでも管轄する部隊は米軍であって、日本の基地ではない。日本はそこを利用して、訓練を行うだけである。このような説明を今後はしていくのではないだろうか。


川上:

 日米がいわゆる米英同盟の方向性で進むのであれば、米国の基地で日本が訓練を行う回数が増えたり、駐在員が訪れたりするなどの手がかりとして日米関係が広がっていくいい機会になるのではないかと思っている。そういう意味では非常に頼もしい流れではないかと思う。


渡部:

 ただ、批判する側からしたら、そのような関係強化自体が問題なのだろう。
 日本の予算が海外で使われるといったところの説明は難しいのだが、やはり一番大事なことは、実現すれば結果として沖縄から相当な数の海兵隊がいなくなるということで、それは沖縄にとってかなり重要であるということ。しかもそれが早期に計画として分かれば、沖縄経済の問題解決のためにもなる。
 沖縄の経済にとって、基地が返還されることで、いわゆる基地効果はなくなる。これについては、いっきになくなると大変だが、計画が分かれば徐々に予定を作成できるし、テストケースも検討できる。振興策として予算もしばらくは望めるであろう。だからと言って移転を実行に移さなければ、米国も考えをまた変えるかもしれない。
 今はイラクで手一杯の米国にとって、ラムズフェルドが決めたことを再検討するような余力はない。米国にしてみれば現状維持でもたいして問題がないので、移転問題を停滞させていると、気がつけばあれほど頑張ったのに全く基地は動いてなかった、というようなことになるかもしれない。少なくとも、早急に移転実現に取り掛かれるということは、実は現在だからこそ、いろいろといい条件が揃っているのであり、これは沖縄県民にしっかりと説明をしたほうがいいと思う。


川上:

 そこで、安倍総理がどれほど問題に取り組む意識を持っているのかというところに戻ると思う。やはり小泉総理のときは、とにかくやらなければいけないということで、ぎりぎりではあったが問題を進めていった。守屋氏は初代の防衛省事務次官として継続するのだろうが、はずみをつけて一気に進めてしまわなくては、SACO の二の舞のように折角のチャンスを失することになると思う。今こそ実施を推し進めて、沖縄の基地負担を軽減するのだといった訴えが必要になってくる。


西原:

 沖縄県民は、海兵隊の 8,000 人がグアムに移ることに対して、どのような立場でいるのか。


上杉:

 反対はしていない。


川上:

 負担軽減になりますから。


上杉:

 ただ、必ずしも大多数の声ではないが、どちらかというと司令部ではなく戦闘部隊に移転して欲しかったという意見はある。事実は分からないものの、犯罪などで迷惑をかけるのは戦闘部隊だというイメージがある。戦闘部隊は屈強で夜になると酔っ払っては暴力事件を起こすが、司令部要員は上品で夜には家族の待つ家に帰る、といったイメージが出来てしまっている。だから8,000 人減るのは歓迎だが、どうして戦闘部隊でなかったのかという思いはあるだろう。


川上:

 でも、戦闘部隊はほとんど沖縄県外に出かけているし、しかもこれからは普天間ではなく、シュワブに移るため、危険性は減っていっていると、最近では沖縄県民も分かってきたのではないか。


上杉:

 確かに、例えばイラク戦争のとき、かなりの戦闘部隊が沖縄を留守にした。しかし司令部が残っていたので、それなりの人数が沖縄にいた。それが今回、司令部がいなくなって、戦闘部隊だけが沖縄に残ることになると、彼らが訓練や実戦で出動したら、かなりの数が沖縄を留守にすることになる。事実上いなくなる。それを負担の軽減と捉えれば、かなり評価できるのではないかと思っている。仲井真知事も要求として普天間基地の閉鎖状態と表現しており、同様のことを考えているのかもしれない。


西原:

 それはしかし、イラク戦争の継続を期待することになってしまうのでは。


上杉:

 確かに沖縄の歴史を見ると、復興の背景には朝鮮戦争やベトナム戦争の特需があった。冷戦によって基地が強化されるとともに、インフラ整備も進んだ。アフガンやイラクで沖縄の海兵隊が戦争をしている時は、沖縄県内は静かだった。平和を願っているが外の戦争から恩恵を受けたという、逆説的な歴史がある。もちろん、これは沖縄県民の理念に反して米軍が駐留しているという現実が突きつけてきた矛盾ではある。


川上:

 ベトナム戦争のときには、結局ニクソンドクトリンによって米軍は前方から引いた。これを教訓としてイラク戦争後の米軍の前方展開を考えると、一旦は海外展開する兵が増えるかもしれないが、やはり引いていく結果になるかもしれない。特に民主党政権になると、そのような転換が起こるかもしれない。ただ、別の考えとして、そのとき本当に日本の抑止力はこのままでいいのかという問題がある。米軍が大幅にいなくなり、さらに相当の数が海外に展開したときに、日本の抑止力は維持できるのか。減った分の抑止力は、自衛隊でカバーできるのか。そういう疑問が出てくる。


○日本の安全への影響

上杉:

 それでは次のテーマとして、日本の国益や安全保障という観点から見て、今回の米軍再編の合意事項をどう評価するか。特に抑止力が維持できるのか、自衛隊がその能力を補完できるのか、を考えていきたい。


西原:

 それは今後どのような国際紛争があるかにもよる。これまでも在沖米軍は、東アジアや極東ばかりではなく、中東などにも展開してきた。中東の情勢が今後よくなるとは思えないから、一時的には沖縄に駐留する兵数が減っても、また沖縄を基本に動くであろう。
 中東以外では、朝鮮半島が次第に米軍を必要としなくなる状態が考えられる。二つの可能性があると思う。非常にうまくいって平和が訪れて米軍がいなくなる。韓国が現在のような反米的な施策をとるために、米国が出て行く。どのような状況にせよ、もし朝鮮半島における米軍が撤退した場合には、かえって沖縄の重要性というのは増す気がする。そこを我々はよく注意しておかないといけない。
    沖縄からは、8,000 人の兵隊がグアムにいっても、必要があれば沖縄に戻ってくる。その辺のことを考えれば、それほど沖縄からの抑止力が弱くなることはないのではと思う。


高橋:

 海兵隊の管理運用体制は、海兵隊の戦略単位を MEU(Marine Expeditionary Unit)、MEB(Marine Expeditionary Brigade)、MEF(Marine Expeditionary Force)と分けたときに、それぞれ出動までの時間が違っていて、MEU は 6 時間、MEB は 5~14 日、MEF は 30~40 日ということになっている。とすると、非常に時間に拘束されるのは MEU であって、それ以外の部隊は、要するにどのみち出動するまでに 5~14 日、あるいは一ヶ月くらいかかる状態にあるということから、グアムへの移転が抑止力に及ぼす悪影響は軽微であると考えられる。


西原:

 この時間というのは、グアムに移った場合の目安か。


高橋:

 どこにいてもこの目安である。例えば、沖縄に駐留していて MEF を動かすとなった場合には、沖縄にいる部隊だけでは MEF 全体の戦闘部隊を構成するには足らないので、ハワイから部隊を持ってこなければならない。そのように、結局ハワイから部隊を持ってこないといけないとき、MEF の司令部が沖縄にあるのとグアムにあるのと、どちらが早く全体の集結が出来るかというとそれはグアムにいるときである。グアムのほうがハワイに近いからである。そうやって考えると、海兵隊のレスポンスまでの時間というのは、実は沖縄にあるよりもグアムに下がったときのほうが早くなる可能性もある。
 こう考えると、抑止力というべきか緊急対処力というべきか分からないが、物理的な対処の能力は決して下がらない。


上杉:

 つまり6時間以内にすぐ出動の必要があるような事態、それは例えば台湾海峡有事や朝鮮半島有事なのだろうが、については必要な部隊が沖縄に残ったので、そのときの対処能力の低下はない。もっと大きな MEF が必要になるような事態については、逆にグアムに行くことでハワイと近くなり、より即応性が高まる。


高橋:

 それにグアムであれば 30 日間かけて集結している間に、外部からの攻撃を受けにくい。


上杉:

 例えば中国などからのミサイルも、グアムであれば届きにくい。沖縄だと簡単に攻撃されてしまうので、集積しているところに攻撃を受ける可能性もある。


西原:

 それでは、次のような場合はどうなのか。例えば、朝鮮半島で有事が起こったとする。ソウルなどで、民間人を緊急に救出しないといけないとき、沖縄に海兵隊などが大勢いる場合は、やはり早く対応ができる。しかし、グアムに行った場合には、だいぶ時間がかかってしまうという問題があるのではないか。


高橋:

 民間人の避難作戦は、MEU のミッションの中に公式に含まれている。どのみち 2,000 人程度の部隊なので、それに見合うことしかできない。朝鮮半島有事となると最終的に 100 万人に近い規模の軍隊が戦うわけだが、実際に初期で使えるような部隊は沖縄に残っている部隊ということになる。他の部隊はレスポンスまでに時間がかかるので、もし沖縄にいても、結局は同じことになる。


西原:

 結局は沖縄に大勢駐留していても変わらない。


上杉:

 そうであれば、抑止力や即応性の観点から沖縄に海兵隊を置くことが必要だったという、これまでの日米の説明はなんだったのかという疑問が、沖縄から反応として出てくる。それではどうして沖縄は 50 年以上に渡って米軍を受け入れる必要があったのか。


高橋:

 それは輸送手段の発達という理由になるのだと思う。


上杉:

 それから、西原先生が指摘した海兵隊は中東まで出撃しているということについて考えたい。中東に向かうための出発拠点としては、やはり沖縄よりもグアムのほうがよいのではないか。例えば、石油や各種物資のルートである、マラッカ海峡などのシーレーンにも、アクセスするためにはグアムのほうが近い。そういったことを考えると、グアムに海兵隊が拠点を置いたほうがいいのかもしれない。そこまで積極的にいえるかどうかは分からないが、抑止力については、結局のところあまり変わらないかもしれない。


○海兵隊の理想的な駐留場所

川上:

 そもそも、昔から海兵隊はグアムに移りたがっているという議論が、確かあったと思う。ただし、移転費用が獲得できなかったためにそれが叶わなかった。それが今回は、日本が資金を出してくれる。しかも、海兵隊の地位も若干強化されている。統合参謀本部議長が海兵隊のペイス氏であるから、まさにタイミングがいいわけである。このように、まさに時流に乗っている今こそ沖縄から移転させるという考えがあるのかもしれない。


渡部:

 ただ、ペイス氏はそろそろ代わってしまう。


西原:

 とにかく、やはり海兵隊にとって沖縄での駐留にはプラスもマイナスもあるのだが、マイナスとしては訓練がしにくいということがあったのだと思う。


上杉:

 沖縄では狭いし、制約が多いし、ということであったと思う。


西原:

 このような視点では、やはりグアムなど沖縄以外に行きたかった希望はあったのだろう。とはいっても、これまでは資金がなかった。それが今回は、たまたま沖縄の負担軽減などといった理由で日本が資金を出す気になっている。そうであればこれを機に移転を実現しようと海兵隊も思っているのか。


上杉:

 別の見方からすると、はっきりとは分からないが、海兵隊はもっと早くきっかけがあれば沖縄からグアムなどへ引いてもよかったが、日本が現状維持を欲していたという意見も海兵隊からは聞いたことがある。海兵隊が日本から引くと、抑止力の低下につながり、自衛隊の任務が増えてしまい、防衛費の増加につながるというのが理由である。


西原:

 一般的な理解として、沖縄に海兵隊がいる理由の代表的な説明は、朝鮮半島有事に備えて非常に重要だからだということである。米国が韓国を守ることが、ひいては日本を守ることにもつながっている。このような理由で、やはり沖縄には海兵隊が必要なのだとされてきたと思う。


川上:

 朝鮮半島有事とあわせて台湾海峡有事も重要ではないか。


西原:

 台湾海峡もにらむためにも沖縄の海兵隊は重要である。


川上:

 台湾海峡も非常に NEO(Noncombatant Evacuation Operation、非戦闘員退避活動)などのためにも重要だと思う。ただ朝鮮半島有事と異なるのは、沖縄県民は中国に対して感情的に近い印象を抱いているのではないかといった問題である。そのために沖縄県民にとって、台湾海峡について間近に迫った問題として、考えるという論議にまで発展するか疑問が残る。


西原:

 沖縄県民は台湾海峡の問題を深刻に捉えているのか。


上杉:

 台湾に近い宮古島や与那国島などの住民にとっては、台湾海峡有事はやはり深刻で、自衛隊を配備して欲しいという意向を持っている人たちもいる。


川上:

 現在は地元の警官 2 人で拳銃だけで守っているようなもの。


西原:

 では、離島の反応はそうだとして、那覇などではどうか。


上杉:

 どれだけ一般の人が軍事的な状況を想定できて、その上でしっかりとした見解を出せるのかというと、それは沖縄県だけに限らず、日本全国で甚だ疑問な点である。


西原:

 沖縄県民がこういった問題をもっと議論してくれるということが、非常に重要なことだと思う。


川上:

 しかしながら、沖縄の一般の人たちと話していると、中国はむしろ先祖だというか、中国が攻めてくるはずがないという意識がどうも強いような気がして、論議が逆になってしまうような気がする。


西原:

 台湾海峡で緊張が高まった場合に、台湾の人々がどこかへ逃げようとしたら、最初に来るのは沖縄なのだから、日本も直ちに巻き込まれる。そのように沖縄も巻き込まれる可能性はあるわけなので、そのような議論を沖縄県民はもっとしていいと思う。


川上:

 結果として沖縄県知事は仲井真氏になったものの、糸数慶子氏の意見に代表されるように、沖縄県内には自衛隊もいらないという結論へ飛躍する人々もいる。日本を誰が守るのかと問えば、いや、中国は攻めてこないのだという。


渡部:

 むしろ、自衛隊や米軍がいなくなることによって、どこの国からも攻められないような状況を作るという発想になっている。


上杉:

 やはりそれは、第二次世界大戦での沖縄戦の教訓が根底あって、日本軍が駐屯していない島は白旗をあげて無条件降伏をすぐしたために、住民の犠牲がゼロだったという過去が沖縄にはある。日本軍がいたところは、徹底抗戦をしたために、結果として悲惨な目にあった。
 だから、軍隊がその島にいれば、そこが戦場になるということを約束するのだから、いないほうが平和でいられるというのが、実体験に根づいた思考法になっている。「命どぅ宝」といわれるように、住民としては誰の統治下であれ、生きながらえた方がよいと考える。先の大戦でも日本軍がいなければ、すぐに白旗をあげて、米国に投降しようと考えていた人々もいた。沖縄の歴史をみると、侵略者に対しては徹底抗戦ではなく恭順する道を選んできた。薩摩が来たときには薩摩、中国が来たときには中国といったように、弱者の身のこなし方として、その時に来た人になびくというのが処世術であったのだと思う。
 以上の点を考えると、やはり第二次世界大戦のときに失敗だったのは、日本軍を沖縄に入れてしまったからだというのがある。このような感情も排除することは難しいかと思う。
 それでも、やはり米軍ではなく、自衛隊で沖縄を守って欲しいという希望が一部にはある。それと同時に、沖縄を二度と戦場にはしたくないというのがあって、台湾海峡の問題や朝鮮半島の問題が起こったとしても、沖縄本島が最前線にならないような手段はないかと考えている。この島を二度と戦場にはしないという強い意志がある。日本政府はそれに応え、沖縄を二度と本土防衛のための捨て石にしないと約束できるのか。仲井真知事もこのような検討を実際に行っているだろう。


○沖縄県知事選挙と沖縄経済

川上:

 沖縄県民は米軍に出て行って欲しいという割には、今回の沖縄県知事選挙でもその傾向があったが、基地に関する政府からの補助が欲しいとも訴える。実際に補助が欲しいと要求することで、いわゆる基地経済に依存しているという実態から抜けられないところがある。このように沖縄県民の間にも葛藤があり、ジレンマがあると思う。こういった問題に、沖縄県民が今後どのように対処するのかという問題がある。


上杉:

 まさに今回の知事選挙で、基地を抱えている周辺の自治体でも仲井真氏が勝ったという事実がある。


西原:

 やはりそれは、仲井真氏が知事になれば中央政府からの援助があるだろうという期待なのか。


川上:

 事前の予想では無党派層の多くが糸数氏に投票すると見られていたのに、実際には仲井真氏に多くの票が流れた。その理由としては、やはり経済的な援助が欲しかったということになると思う。


西原:

 沖縄県の財政の大半が中央政府からの援助だったと思うが、沖縄県だけでは実際のところ運営できないのではないか。


上杉:

 沖縄県が国から援助を受けていることが指摘されるが、それでは例えば島根県や鳥取県などの地方はどうか。沖縄県については援助割合が大きいことがよく指摘されるが、恐らく島根県や宮崎県も県の財政の大半は国からの援助に頼っているのではないか。自力でやっていけるようなところは、東京都や神奈川県、あとはトヨタがある愛知県などごく一部に限られているのではないか。


渡部:

 ただ沖縄県が他の自治体と違う部分は、やはり基地があるということで特別な補助であるから、景気に関係した減額がほとんどないという点であろう。他の地方自治体は、補助関係を深刻に減らされている。沖縄県ももちろん減らされているが、基地に関するところは減らしようがない。
 それと、沖縄経済は確かに全般的に他の地域と比較するとよくないけれども、沖縄県の過去と比較すると非常に伸びている。これは特に観光客の航空運賃が下がったことで、観光収入がアップしている。沖縄県内のリゾート地を外資が買って、整備されてよくなっているのだが、他所からの資金が入ってきて、それで資本が整い、そこに客が集まってくるといういい循環を持っている。このようにうまく循環している部分の下支えをしている資金が基地関連資金であって、まさに補助をうまく使っているから現在の沖縄県の経済があると見ていいのではないか。


上杉:

 もちろん地方にもよるが、確かに沖縄県以外の地方に行くと、商店街はシャッターが閉まり、飲み屋街も夜 8 時頃には閉店しているといったような状況がある。沖縄県内ではそのようなことはほとんどなくて、飲み屋街も翌朝まで開いているし、国際通りは新しい店が次から次へと出店している。このような現状を考えると、他の地方都市とは状況がまるで違うのであろうし、それがたぶん金の流れの違いなのであろう。


西原:

 このような点は沖縄県民も少しは理解したほうがいいのではないか。


上杉:

 実際に沖縄県民は理解していて、そこはしたたかに「処世術」として利用しているのではないか。


西原:

 今度の移設に係る補助金についても、達成度に応じて支払うというやり方だが、あのような状況をみると、地方財政のためには基地も受け入れて、その整備を進めていかなければならないのかと、地方からすると思ってしまうだろう。


高橋:

 補助に限らず返還跡地の問題もあって、今回返還されるという沖縄県内の 6 施設は、SACO のときに返還するとしていた北部の訓練場などと違って、跡地として利用できる経済価値のある場所が返ってくる。それらをどう活用するのかという課題もある。


川上:

 跡地利用については、OPAC などからも提言を出さないといけないのかもしれない。


上杉:

 私の感覚では、今回の再編合意が実現できれば、それは沖縄県にとって、海兵隊の人数が減るということが負担の軽減にも繋がるし、普天間の危険な状況というのが、少なくとも辺野古沖に移ることによって、だいぶ軽減される。加えて、振興策も継続して行われる。利用価値の高い地域の土地も返還される。以上を考えると、理想的な解決策ではないかもしれないけど、非常に実利としては得るものが多いから、この機会を逃さずに履行したほうがよいのではないかと評価できると思う。


○辺野古移設問題

西原:

 現行の案を進めるとなると、辺野古の V 字形案にいずれは仲井真知事が許可を出すことになるのか。


川上:

 東京の受け止め方と沖縄の受け止め方が全く違う。
 東京からすると沖縄県は辺野古案での受け入れを織り込み済みで、いずれは受け入れるのだということで了解がある。しかし沖縄県では、やはり 3 年などといった期限を切ったり、再度検討しないといけないなどと言ったりしている。この点については、実際に仲井真知事に話を聞いてみたいと思う。


西原:

 沖縄県では 15 年使用期限もまだ訴えているのか。


上杉:

 それは稲嶺県政が過去に主張したもので、もはや誰も主張していない。ただ、辺野古に建設するとして日米が合意した V 字形案に対しては、稲嶺時代から現在の仲井真県政にかけて、一度も合意していない。


渡部:

 少なくとも公式には。


上杉:

 稲嶺前知事と仲井真知事の発言は、必ず気をつけて「現行」の V 字形案や「現在」の政府案には承諾しないと、但し書きをつけて表現しているはずである。つまり、滑走路が一ミリでも短くなったり、一センチでも横に移動したりすると受け入れる可能性はあるという余地は残してある。これを前提に考えると、沖縄県も既定路線としては、現行案に近いものを受け入れるつもりではいるのではないかと思う。


川上:

 ヘリパッド案については、まだ沖縄県から主張があるのか。


上杉:

 仲井真知事になってからは、少なくともヘリパッドについてはほとんど言及されていないと思う。


西原:

 他には、負担軽減のために普天間を閉鎖して、移設先は沖縄県外にするべきだという議論もあった。あれはまだ言われているのか。それとも、場所としては辺野古に移転するという合意まではなされているのか。


川上:

 島袋名護市長が、一応は合意したはずである。


上杉:

 どこを地元とするかといった問題だが、周辺自治体である宜野座村と名護市の首長は容認して、合意書にサインをしている。ただ、沖縄県としての基本スタンスは、県外および国外への移設がベストとしている。沖縄県としても、地元となる市町村の首長が賛成するのであれば、それを尊重することもあるかもしれないといった反応になっている。


西原:

 V字形案に対して反対であるならば、沖縄県としてのアイデアがあるのか。


川上:

 それが先ほどのヘリパッド案であったのだが、現在はなくなっているようである。


上杉:

 沖縄県からの主張としては、普天間基地は 3 つの機能があった。駐留するヘリ部隊の基地、緊急時の増援部隊等の受け入れ用の基地、それに空中給油機(KC130)の基地。これらのうち、緊急時の受け入れは今回の合意によると、本土の築城や新田原などで引き受けるとなった。空中給油機は岩国に移転することになった。そこで残ったのはヘリ基地としての機能だけであって、新施設に必要なものはこれだけになるはずである。ヘリ基地であるとすれば、1,800 メートルもの滑走路がどうして必要なのか。
 これが沖縄県の論旨であって、新たな滑走路が 1,800 メートルもの長さになる疑問に回答を得ていないと主張し、ヘリ機能だけであるのならば、ヘリパッドの建設でも十分ではないかと主張してきた。


川上:

 滑走路の長さについては、オスプレイ(垂直離着陸が可能な新型輸送機)の議論になると思う。


上杉:

 オスプレイを運用するという議論も確かにある。オスプレイは垂直離着陸だけでなく、滑走による離着陸が必要な場合がある。しかし、実際には 1,800 メートルもいらないはずであり、それに対する日本政府の説明が全くないわけである。


川上:

 それに関しては、国会でそれに関する政府からの答弁があったと記憶している。


川上:

 沖縄県民や県庁としては、ヘリ機能だけであるならば、ヘリパッドで十分で、なぜ 1,800 メートルの滑走路を持つ飛行場にする必要があるのかと考える。そこに対する納得できるような説明が、まだ出てない。


川上:

 オスプレイが運用されるという答弁も額賀氏が一度したように思う。オスプレイが来るから、滑走路が必要になって、オスプレイの離着陸に最大搭載で 1,800 メートルが必要になる。政府もどうしてこれを詳細に説明しないのか。


渡部:

 オスプレイは事故が多く、故障や落下が多いという問題がある。


西原:

 しかし、辺野古沖であれば落ちても海だから大丈夫ではないか。


川上:

 辺野古は住宅地などが近くにあり、万が一の際にはそちらに影響が及ぶ場合もある。


高橋:

 しかし、開発試験中にオスプレイが事故を起こしたのは、垂直離着陸モードのときである。


渡部:

 オスプレイの技術的な質問だが、垂直離着陸は通常の離着陸よりも燃費が悪いはずである。そのため、普段の任務のときは、滑走路があったほうが燃料を節約できる。さらにある程度積荷を積むためには、1,800 メートルの滑走路が欲しいということになる。
 ただ、それではどうして、SACO 合意の時の滑走路の長さが 1,300 メートルであったのか。謎である。


高橋:

 あれは当時のペリー国防長官が押さえつけて決めた数字という話もあるが。


渡部:

 1,300 メートルは政治的な妥協の数字だということか。


上杉:

 私が聞いた話では、輸送機(C-5)に大型輸送ヘリ(CH-53)を積んだときに、最低必要なのが1,200 メートルであって、そうであれば 1,300 メートルあれば問題はないであろうということで、SACO のときには 1,300 メートルになったらしい。


渡部:

 今回はそこから、司令部移転に反対した海兵隊を納得させるために、プラス 500 メートルが政治的判断であったのではないかと思う。


西原:

 さらに言うと、全てのパイロットが上手なパイロットではないので、余裕を持たしておきたいというのがあるのではないか。


○仲井真県政の展望

上杉:

 普天間基地の代替施設ができるということが、今回の沖縄県内の様々な負担軽減策の第一関門であるとされている。それに対して新しい仲井真知事は、3 年以内に、現在の普天間基地の事実上の閉鎖、または危険性の除去を求めている。稲嶺氏が SACO のときに 15 年という期限をつけて大きな問題になったにも関らず、今回も仲井真知事は 3 年という期限をつけた。このような現状、またはこれからの仲井真県政に対して、皆様から何かコメントをいただきたい。


川上:

 条件をつけすぎると、実行に移れないかもしれない。自分で自分の首を絞めるようなことはやらないほうがいいだろうと感じる。


高橋:

 そもそも、仲井真知事は次の選挙も出る気があるのか。


川上:

 そればかりは本人に聞かないと分からないと思う。


上杉:

 これまでの流れから事実上不可能と思われることを、選挙公約としてわざわざ明確に 3 年以内と示すことは、普通に考えればありえない。その 3 年というのも次回の知事選挙よりは前であって、実現しなければ次回の選挙のときに、自ら公約が守れなかったことになる。このような行動は普通に考えたらありえない。それを考えると、絶対に勝算があっての発言であると思っていると、ハワイの関係者は推測していた。日本政府が仲井真知事と既に交渉を行っているのかもしれない。


川上:

 しかし、仲井真知事の周囲にいるマスコミの話では、3 年以内に普天間基地の危険性除去と主張したことは、間違いであり軌道修正をしてきているという噂もある。今では 3 年といった期限をなるべく使わないようにしているということも聞いているが、よく理解できない。


渡部:

 勢いで出てきて、間違っていたという可能性は確かにある。稲嶺氏のときの 15 年使用期限もそうであったと聞いている。


上杉:

 ただ、仲井真知事は稲嶺氏の教訓を十分認識していた。仲井真知事自身が、これまで 15 年と期限を稲嶺氏が発言したのはよくなかったと何度も指摘している。それを自らやるということは、必ず何かあると見るのが普通ではないかと思う。


渡部:

 しかしながら、人間は間違いをするし、最初に考えたときは今回の場合は少し意味合いが違うというように考えたかもしれない。結果としてはそれでも自らの首を絞める発言だとは思うが、米軍側に 15 年の期限を求めることと、日本の目標設定として 3 年を設定するというのでは、相当程度意味合いが違ってくる。過去の様々な事例からいっても、政治家は人間なので間違いもするし、そういう可能性は排除しないほうがいいと思う。


川上:

 仲井真知事が当選した後の、東京での久間防衛大臣(当時は防衛庁長官)のコメントが、これで特措法を使わなくてよくなったということであった。確かにこれは、政府と沖縄県で話し合いが持たれているといったような指摘通りのところから来たのかもしれない。


高橋:

 ただ、3 年とは、要するに 2009 年であるから、韓国は新しい政権になっているし、台湾も新しい政権になっているし、米国も新しい政権になっているし、ロシアも新しい政権になっているし、北京オリンピックも終わっている。地域情勢的には嫌な時代になっている可能性を捨てきれない。そうすると、国内の政治スケジュールだけを考えての危険性除去という主張には、政府は絶対に賛同できないと思う。


上杉:

 今回もこの 3 年という期限の問題が非常に重要な問題になるかもしれない。


○これからの沖縄問題

上杉:

 今後の仲井真県政については、まだ見えてこないところも多いが、最後にこれからの仲井真県政への期待や助言、また OPAC への提言があればいただきたい。


渡部:

 これから先については、現在から(米国の次の政権が発足する)2009 年までといったようなタイムスパンで考えるのは重要である。米国はとにかくイラクを抱えていて手が足りない。優先順位の高い問題に集中して、他の問題をぎりぎりのところでまわしている。最優先を中東に置いている現在は、どうにかイラク状況を改善したいと考えていて、まだ比較的余裕のある北朝鮮問題は中国に任せておくという方針をとっているようだ。つまり、東アジアの問題は東アジアで解決して欲しいと米国は思っているので、このような時期というのは、実は日本の発言力は相対的にかなり高くなる。時期を区切るとしたら、現在という時期はまさにこのような状況である。
 米国は余裕があればわがままを言うけれども、今の状況はわがままを言っているどころではないので、かなり日本が積極的に合理的な判断をして進められる余地がある。ただし逆に考えると、米国に余裕がないから、あまり選択できる範囲は広くないので、大きく方針転換をするといった余裕はない。
 このようなことから、今まで進めてきたラインを進めるには非常に有利だが、もう一回米国と交渉やり直すというのは、ほぼ不可能というのが前提となる。このような状況の中で、それではどちらへ進めていったほうが沖縄の負担が減るかと考えるべきなのである。ある程度選択肢は限られているので、ここはできる限り現状の計画を進展させるべきであって、それを進めないことは日本と沖縄の両者にとってマイナスである。
 もう一つは、現在の米国はイラク問題にはまり込んでいるものの、長期的にみると先送りしている中国と北朝鮮の問題にいつかは直面する。恐らくタイムスパンとしては、北朝鮮のほうが少し近い将来にあり、中国との問題はさらにその先にくるだろう。
 このような将来の展開を米国側の関係者は少なからず考えている。そのために同盟の重要性や周辺のプレゼンスを長期的に大幅に減らしていって、最終的にゼロにするということはありえないし、日米同盟と在日米軍は将来のある時点で非常に重要な役割が訪れると思う。
 それに向けて 2 つ重要な点がある。効果的で実効性のある機能をしっかりと維持することと、それが安定して維持できるように、日本側の不満の種となるような沖縄の負担などは減らして、普天間基地のような問題も解決しておくことである。私は、これら全てをうまく達成できる方法を、現状からであれば作っていけると考えているので、あとはどれだけ沖縄県民を説得し、日本政府を説得して、沖縄と東京が一緒に話を進めるのかということになると思う。


西原:

 やはり沖縄の県知事が、あたかも米軍が近い将来にいなくなるかもしれないといったことを発言するのは避けるべきだと思う。沖縄県民は、米軍の基地を恒久基地だといって非難をするが、恒久とは言わないものの、やはり相当の間は残るという想定で、少なくとも政治上では話すべきだと思う。
 そこで横須賀を知る私としては、例えば是非一度横須賀に来てもらいたい。横須賀では大きな米軍基地を抱えていて、一度空母が寄港したら 5,000 人規模の米兵が上陸するわけで、そういう状況の町で、いかに上手に共存しているかというのを見て欲しい。OPAC としては、横須賀に視察するといった活動もするとよいのではないかと思う。他には例えば厚木も騒音問題があるが、地元住民と米軍は、沖縄県ほど敵対関係にはないように思う。もちろん、これらのような共生関係を求めるためには、米軍ももっと努力すべきところがあると思う。
 沖縄県より大変な地域は国内にあるたくさんあるはずで、それでも何とかやっている。もちろん歴史的な積み上げもあるので、一挙に改善とはいかないが、新たな視点や取り組みを沖縄県が持ってもいいと思う。


上杉:

 恐らく沖縄県の主張としては、在沖米軍の存在は日本の安全にとって大事だということは理解している。だから日米安保に対して、沖縄県内でも多数が理解を示している。ただ、他の地域でも沖縄県と同じくらい負担を受けて欲しいと考えている。もしかすると、このような考えを理解しない政府に対する反感のほうが、米軍への反感よりも強いのかもしれない。
 米軍への要求というのは、沖縄県内に駐留するのであれば、客分としての最低限のマナーを守って欲しいということである。沖縄県民が求めているのは、深夜や早朝、学生の試験期間中に、わざわざ訓練をするのをやめて欲しい、酒を飲んでもいいが、犯罪行為はやめてほしいということである。沖縄国際大学にヘリが墜落したときに、地元の首長すら現場に立ち会えないというのは問題であると、そのような基本的な最低限の要求をしているだけである。


川上:

 もし私が仲井真知事にアドバイスをするとしたら、折角、政府からも後押しがあって知事に当選したのであり、今こそ絶好のタイミングが来ているので、合意事項を積極的に進めていくべき、ということである。その後で、やはり政府の中でも沖縄県のことをよく考えて、基地の負担を減らそうとしている人も政治家などにたくさんいるわけだから、そういう人たちと一層コンタクトをとって、沖縄県からさらに基地管理権や地位協定といった基地の負担軽減を求めるために進めていったほうが、沖縄県民のためになると思う。選挙によって、そういう選択を沖縄県民がしたわけだから、積極的に進めてはどうかと思う。


高橋:

 沖縄県政でできることは限られているので、上杉先生からもあったように、今回は負担を大きく減らすチャンスだし、やはり返還される 6 施設、あれだけの面積がかえってくるような機会は、もう今回を逃したらないと思う。今回で負担を軽減し、自立的な経済振興に結びつくような構想をしっかりと打ち出すことが必要であると思う。


川上:

 結論から考えると、まさに 2 年前に出した OPAC の報告書は当たっていた。それがまさに今、実行の時期として来ているわけで、OPAC もさらに提言をしていくことが沖縄県のためになる。


上杉:

 私の個人的な認識は、SACO 合意はいいものであった。SACO 合意は日米沖の三者全員が勝者だとの認識があったが、目玉の普天間基地が動かなかったので問題となった。2 度とそのような事態にならないように、どのような対応を進めればよいのか。それに対して提言ができればいいと思う。
 例えば仲井真知事の立場になって、3 年以内の普天間基地の危険性除去を実現するには、簡単に思いつく案としては、ひとまずキャンプ・シュワブの陸上部分は日米政府で飛行場を作るということに合意しており、宜野座村も名護市も許可を出しているので、とりあえず陸上部分だけでも駐機場や給油・支援施設を作ってしまうというものである。ひとまず、そこへヘリ部隊を移駐させれば、普天間基地の危険性というものは除去できる。それ以後は、状況に応じて滑走路建設を進めていくという手法である。これが一番実現可能ではないかと思っている。
 日米政府としては、とりあえずキャンプ・シュワブ内から建設を始めるということで、合意履行が進展していることを示せる。沖縄県としても、普天間基地の危険を早急に取り除くことになる。さらに日米両政府にとって、合意した既定路線のままでよくて、イラクで多忙な中に修正作業まで行う必要がなくなる。
 滑走路建設は譲れないということであれば、次のような案もある。滑走路は建設を始めても、いきなり完成するわけではなく、徐々に作らなくてはいけない。そこで陸上部分から作っていくにあたり、滑走路を 2 本も建設するのだから、1 本を先に建設して稼動可能にしてしまい、そこにひとまずは普天間のヘリ基地機能を移設する。もう 1 本はその後に建設していくよう、段階的に考えていくことにすれば、意外と現在の日米合意の枠の中で、沖縄県が主張していることが実現できるのではないか。
 次に環境などの問題解決であるが、環境アセスも海を埋め立てるためには必要があるが、陸地でしかも米軍基地の中であれば、知事の許可や環境アセスにかかわらず進めることができる。この陸地部分については、明日にでも開始してもいいのかもしれない。古墳などの発掘調査も進めており、その詳細がまだ分からないということがあるものの、とりあえず海を含めると環境アセスに 3 年、建設に 5 年といわれているところを、陸上部分だけということで先に進めてしまえば、環境アセスは海の部分だけ後から行うということで、早期に普天間基地の危険性が除去できるかもしれない。


川上:

 5 月の最終報告の中で、普天間飛行場代替施設の移設については部分的に進めるのではなく、同施設が完全に運用上の能力を備えた時に実施されるというくだりがあった。そうなると、完全に完成してようやく、普天間機能の移設も可能になるので、その合意事項を改めなくてはならなくなる。
 普天間基地の司令官にしてみれば、特に普天間基地から辺野古へ自ら動きたかなくても現状維持でもよいと考えるかもしれないので、やはりしっかりとした移設先が無ければ、現場としては動かないようなところもある。そうなると部分的な移設という案は、いまいち実現性がないかもしれない。そうでなければ、緊急時には対処できないからだ。


上杉:

 同じく日米合意を引けば、緊急事態は他の飛行場(築城や新田原)を使うという前提があるので、仲井真知事の主張を実現しつつ、日米合意も尊重するのであれば、やはり先述の案くらいしかないのではないかと思っている。
 先ほど渡部先生が、米国はイラクで手一杯であって、日本のイニシアチブや発言力が増すのだとすれば、日米合意の大枠は基本的に守りつつ、しかしその中から詳細な建設計画などといった枝葉末節な部分は日本に任せてもらうよう主張できるかもしれない。日本としては、まず陸地部分から建設を進め、陸地部分を作っている間に、海の部分の環境アセスを行うといったように筋道をつけたい。このように進めれば、2014 年までには海の部分も建設が終了し、予定通りに移設と使用が可能になる。このように全体を考えれば、必ずしも合意を反故にして新たな合意を作らずとも、仲井真知事の主張も守りながら全てを進められるのではないかと考える。


川上:

 どのような案を実行するにしても、やはり最大の点は予算だと思う。日本政府がいかに予算を獲得して、それで 18,000 人という軍属を含めた米軍関係者を沖縄からグアムに移すか。これが実現すれば、もはや普天間基地からどこかへ移ることはほぼ間違いなくなるので、このような点を沖縄県と久間防衛大臣などの中央政府との間で連絡を密にして、まずは進めていければよいと思う。これが重要である。そのためにも、下手に揉めるようなヘリパッドなどと言った主張を行わないことも手段であるかもしれない。


西原:

 ちなみに、グアムの施設は 3 年くらいで完成するのか。


上杉:

 グアムでの受け入れについては、早くても 2010 年からは受け入れを開始すると言っていた。


西原:

 2010 年ということは、まさに今から 3 年後である。仲井真知事の 3 年という根拠は、これから来ているのかもしれない。


上杉:

 確かに、計算の上では合致するので、やはりすでに話し合いは行われているのかもしれない。


川上:

 最も重要なアドバイスは、やはりOPACのようないいブレーンが沖縄に必要であるということ。そうしないことには駄目である。